カート
  • ホーム
  • “美味しい”が継承される未来へ ハマオカ海の幸・浜岡愛子さん

風の縁ショップ一周年記念
生産者インタビュー

“美味しい”が継承される未来へハマオカ海の幸・浜岡愛子さん#01

「《風の縁ショップ》をはじめます」と宣言してから、6月で1周年を迎えました。ご利用いただいた多くのお客様に、感謝を申し上げると共に、商品を提供いただいた生産者の皆様の思いや考えを、お客様へお伝えする機会を作りたいと考え、今回「生産者インタビュー」を企画しました。
第1回は、風カルチャークラブの講座でもお世話になっている富山県・魚津市のハマオカ海の幸から専務取締役の浜岡愛子さんです。6代続く海のお仕事や商品についてそして未来に向けて語って頂きました。(聞き手・中坪聴子)

ハマオカ海の幸さん(以下ハマオカさん)は、魚津の地で富山湾の恵みと魚のおいしさを伝えていらっしゃいますが、創業のきっかけなどをおしえてください。

ハマオカ現在の干物や冷凍魚の卸売・小売りをはじめたのは、先々代にあたる祖父からですが、その前から船を持っていたこともあり、海の仕事を生業としていました。私たちの代で6代目になります。

ハマオカさんのHPにもありましたが、「天然のイケス」が目の前だと海関係のお仕事になりますよね。

ハマオカここは2000m級の立山連峰から海までの距離が25?と短く、深い海なので色々な魚種が近い海で獲れます。海洋関係の先生方からは魚津の地形は日本の縮図だとおっしゃって研究される方もおられます。

自然の地形と海の近さがこの漁場を育んでいますね。

ハマオカ住んでいると当たり前になってしまうのですが、とても恵まれているなと思います。他では獲れない深海魚もいますし、カニもたくさんとれるので、「カニ籠」という特殊な漁の仕方があるのですが、その漁もここが発祥なんです。先人の方々はそのような知恵を積み重ねてこられたのです。ただ、昔、お金になりやすかったのは北海道の魚、鮭などの漁だったので、腰を据えてここの魚の魅力を伝えるようになったのは最近です。富山らしい自然と食で伝えられるこの職業に携われることが幸せです。

「寒の汐ぶり」は熟成されて旨味が進化

「寒の汐ぶり」は、12月に塩で締めた後、熟成技術で年間通じて美味しいということですが、これは熟成具合の期間で美味しさが楽しめるということですか?

ハマオカそうです。12月から半年ぐらいはフレッシュな味で「旬の汐ぶり」として、夏以降は熟成されて旨味が増してくるので「熟成汐ぶり」として味わってもらえます。フレッシュな味というのは、お漬物で例えると浅漬けみたいな感じですね。

いただいた時に感じたのは旨味が強いと感じました。あと臭みがなくて、身がしっとりとしていました。

ハマオカ汐ぶりってあまりメジャーではないのですが、昔、京都の一部でも扱っていたようです。生ブリの切り身に塩を振って焼いたものと、当店の汐ぶりを食べ比べてもらうと熟成という意味がよくわかっていただけると思います。


他の干物、みぎすやカマスなども旨味を濃く感じました。

ハマオカ富山湾は急に深くなるので漁場が近いんです。船で揚げたものを陸に戻すまでの時間も短いので、魚の鮮度がよく、立山連峰からの良質な湧き水もあります。その水と塩と魚が職人の技によりおいしい旨味になります。

旨味が深くて凝縮しているという感じをうけました。

ハマオカ熟成した旨味には私たちもこだわっています。ポイントはお塩の角がとれるところです。生魚に塩を振るだけだと、塩が角々しく魚の青臭さが残るんですが、熟成させることで塩味の角がとれ青臭さが減って旨味が増すんです。

なるほど、だから旨味が深いのですね。お酒とも相性がいいんですよね。

ハマオカ欧米の味は先味の文化で、例えば、ポテトチップスのフレーバーのような味です。日本人が昔から「旨い」と感じる味はアミノ酸などの旨味です。この旨味は塩などを振って浸透したあとに焼いたりして感じる味です。浸透させ化学反応を起こしてでてくる味は、後味の旨味なので、同じく熟成をさせて作っているお酒とあうんです。

地元の方も干物はよく食べるのですか?

ハマオカ地元の人は、生の魚が手にはいるので、海が荒れて生魚がない時は干物を食べました。どちらかといえば県外の海のない地域のほうが汐ぶりなどよく食べていたと思います。ここ20~30年くらいからは、地元でも汐ぶりを食べるようになりました。私の息子は汐ぶりが好きで、生のブリを焼いた物は酸っぱいっていうんです。

酸っぱいですか?!

ハマオカそうなんです。酸味を強く感じるみたいですね。熟成の汐ぶりをよく食べているので、それに比べると酸味を感じるんだと思います。味に関しては、子供たちがいろいろ教えてくれます。

12月に仕込む「寒の汐ぶり」は迫力満点!

地元の味「サスの昆布〆」とは?

風の縁ショップに掲載している2021年の春夏セットには「サス」という「黒かじきまぐろの昆布〆」が入っているのですが、とっても美味しかったです。

ハマオカサスは地元の人がよく食べます。周りの昆布を外したあとお料理に使って食べられるし、冷凍庫に入れておけば、お刺身がないときに解凍すれば食べられます。今こういった状況で、なかなか帰省できないので、地元の方が県外にいる家族や知人へ送るナンバー1、2がこの「サスの昆布〆」なんです。北洋船の歴史もあり、昆布をたくさん消費する県なので、それがいい塩梅で食文化になったのではないかと思います。

富山の伝統食「黒かじきまぐろの昆布〆」を日本酒で

創業70年以上ですが、これまでに大変だったことなどはありましたか? 気候変動の影響などはいかがですか?

ハマオカ10〜20年前にくらべるとブリの流れはだんだんと北上しています。北海道でブリが大量に揚がったり、富山湾でも以前はあまりとれなかった鰆が大量に獲れたりしています。消費者の皆さんは「〇〇県産」にこだわりますが、味はとれた場所だけで決まるわけではなくて、処理の仕方や私たちが守る技術や志とかで変化するものだと思っています。気候変動の問題は地球規模のことですので難しい問題ですが、自然に優しい定置網漁にこだわるなどして、今、自分たちにできることを未来に引き継いでいきたいです。

ハマオカさんのHPには、子供達に食べてもらいたい、未来に伝えたい、引き継ぎたいという思いを感じます。

ハマオカ美味しいと感じる舌とか口は、生まれながらに持っているのに、その機会を与えられずに生きてしまうと、そのおいしいという感動を味わえなくなってしまいます。なので子供の口が正直なうちに、その感動を味わってほしいと思ってます。美味しいってとても幸せなことだと思うんです。

親が「美味しい美味しい」と食べていると子供も食べるようになりますね。

ハマオカ苦手になってしまったのは、食べ物に原因があるわけではなくて、当時の環境だったり、あまりおいしくないAというものを最初に食べてしまったために、Aに対しての思いが嫌なものになってしまうのではないかと思います。科学的に作られたものを食べてしまうと子供の舌は正直なので、美味しくないと感じてしまいます。親である私たちも子供の時においしいという感動体験がないと、子供に伝えることができないので、親と子供が一緒に食べてほしいと思ってます。私たちも、親世代が昔作ってくれたものや、自分が子供のころに食べていて美味しかったと思うものに、手をだしてみるってことが、今の子供達に伝えられる幸せの一つなのかもしれないです。

親が送ってくれたものを大人になったときに、「久しぶりに食べたいな」とか、思うことがあります。

ハマオカそうなんです。「食べたいな」と気付いた時に、作ってくれる業者さんやメーカーさんがいないと食べられないので、私たちは気付いて頂ける時まで、作り続けることが大事だと思ってます。以前はおじいちゃん、おばあちゃんから送ってもらって食べていたものを「食べたくなったので」と電話があり、送ってほしいといわれたときに、おじいちゃんおばあちゃんの思いは次の世代に届いていたと感じます。そういう「美味しいが継承」されていくことは、とても嬉しいです。

「美味しいが継承」、つなげていきたいですよね。

ハマオカそうなんです。つながりを大事にしていけば、私たちもこの仕事で生活できるし、みなさんにも美味しいと思ってもらえて、また買いたいと思ってもらえる仕事として、私たちは頑張れるなと思います。

お話を伺って、ハマオカさんの思いや美味しいが伝わってきます。

ハマオカ田舎や自然の中にいると、おいしい感動が身近にあり、この精神状態を保てるんですが、都会にいると保てなくなることがあるのでは…と思います。食べることでほっとしてもらえたり、帰る場所になれたらいいなと思っています。HPに掲載している夕日も、ほっとする場所として、皆さんにも少しでも安らいで頂ければ、日常のちょっと辛いことも乗り越えられるかなと、田舎からエールを送っています。

今回はステキな「美味しいお話」をたくさん聞かせて頂きありがとうございました。

富山湾に沈む夕日はほっとする場所